『悪玉』が「動脈硬化」って言われても(後編)

その結果、ひどいときには血流に耐えきれず破裂したり、狭くなった血管に血栓ができて詰まったり。その障害が起きる場所によって、「心筋梗塞」や「脳梗塞」、「大動脈瘤破裂」といった深刻な症状を引き起こします。だから、『悪玉』を下げる治療目的は、深刻な動脈硬化を避けたいから。(リポタンパク質の1種という前提が共有できたので、以下から略しますよ。)


実際に、多くの大規模臨床試験が行われ、『LDL値は低ければ低いほどよい』というコンセプトが確立されています。ところが、LDL、HDLがともに動脈硬化学会の診断基準では正常範囲内にある人が、心筋梗塞を発症する例も報告されます。初発の急性心筋梗塞患者さんの40%が、入院時のLDL値120㎎/dL未満であったという報告があります。そのグループはHDLが低い方が多かったので、「L/H比を計算したら、80%以上の人が1.5以上」というレポートがあります。(中野明彦らTherapeutic Research. 31:1711-1717, 2010.12(172))
 ただ、LDLと違って、HDLについては詳細な管理目標値が定められていません。中性脂肪との関係とか、肥満、飲酒、メタボ、その他の要因でHDL値は大きく動きます。実際に、運動や禁煙はHDLを上昇させます。でも上昇させる治療薬は未だになく、明確なHDL値やL/H比の管理目標値は決まっていません。


 その他にも、糖尿病、タバコやアルコールの摂取によって生じる化学的刺激、ストレス、加齢が、動脈硬化を起こす有名な要因です。


 だから、バランスのいい食事(食物繊維やビタミン摂取し、脂身の多い脂肪は控える)、適度な運動(筋肉増やせば基礎代謝上昇上がり、糖や脂肪の代謝もよくなる)、禁煙(タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素が血管にダメージを与える)を行う。それでも改善なければ、積極的早期の投薬治療を行っていきましょう。


 チームSAIでは今日も、有用な指標であるL/H比を日常診療に積極的に利用しながら、同じ話をしています。